東京大学との産学連携プロジェクト推進
リヴァンプでは東京大学との産学連携プロジェクトを推進しています。
本記事は、経済コンテンツメディア「 PIVOT」により制作されたものです。
リヴァンプへの”& questions”
ビジョナリーを招き、キーワードをもとに掘り下げていく番組「& questions」。
今回のゲストはコンサルティング会社のリヴァンプ。
インタビュアーはPIVOT CEO 佐々木紀彦。
佐々木紀彦(以下、佐々木)
本日のゲストは株式会社リヴァンプ代表取締役社長執行役員CEOの湯浅智之さん、同社の江上由美さん、港高志さん、そして東京大学大学院農学生命科学研究科准教授の村田幸久さんです。
まず大きなテーマとして、東大とリヴァンプの「産学連携」のプロジェクトについて伺います。これはどのようなプロジェクトなのでしょうか。
湯浅智之(以下、湯浅) リヴァンプではこのプロジェクトを江上を中心としたビジネスチームと、港を中心としたテクノロジーチームを組成し、村田先生の研究開発を支援しています。
村田幸久(以下、村田) 私たちは「人と動物の命を救う」というミッションのもと、創薬の効率化に向けた研究を進めています。
新しい薬を開発し、製品化する「創薬」のプロセスには大きく3つの課題があります。
1つ目は、薬のタネとなるような化合物が枯渇して創薬効率が悪化していること。
2つ目は、創薬の現場である製薬企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)が遅れていること。
3つ目は、動物実験における動物の行動に対する評価体系の信頼性が低いことです。
私たちが研究しているのは、3つ目の動物実験です。
人間の薬をつくるためには、少なからずネズミや猿、犬といった動物での実験が行われます。しかし、認知症や鬱といった疾患が実験動物にもあるかというと、言葉を話さず感情も分からない動物から判断するのは難しい。そのため、実験動物の行動評価系を開発する必要があります。
佐々木 具体的にどのようなものでしょうか。
村田 どの行動がどのような状態や感情を表しているのか、その指標をつくるのです。従来は人の手でつくられてきましたが、信頼性が高いとはいえないし、動物の扱い方によって結果が大きくブレてしまう。
例えば、鬱のモデルとなるネズミを見分けるために、どうするか。ネズミの尻尾を持ってぶら下げ、嫌がってもがくまでにどれだけの時間がかかったかで評価するんです。鬱のネズミはもがく時間が短い。つまり、あきらめやすいとされる。そういうネズミを鬱のモデルにして、製薬会社がつくる抗うつ薬を投与すると、もがく時間が長くなる。これが抗うつ薬で用いられる一つの指標なんです。
でも、人間はそんなふうに診断しないですよね。ぶら下げて、もがく時間を計り、いつあきらめるかで「あなた、うつ病ですよ」とは言わない。
佐々木 確かに、それはおかしいですね。
村田 実際は家のなかで端のほうに寄って、あまり活動せず、気持ちも上がらないといった状態が鬱の症状です。
ですから私たちは、ネズミも飼育ケージのなかでのさまざまな行動を観察し、AI(人工知能)を活用してデータを解析して、信頼性の高い行動評価系を構築しようと考えました。
そのために行うのが、まず実験動物の特徴を挙げること。目や耳、鼻、尻尾などの特徴を画像認識によって抽出します。
次に一般行動の識別。「引っ搔く」「水を飲む」「毛繕いをする」といった行動を連続画像の中から識別します。
さらに個体の識別。同じ飼育ケージの中にいるAとBを見分け、AとBは仲が良いのか悪いのか、といった社会性を識別する。これらのデータをAIと研究者で解析、解釈して評価系をつくるのです。
そして、その評価系をもとに食欲や活性の低下といった人間の鬱と同じような行動、症状を抽出すれば、より人間のモデルに近い動物モデルが得られます。人間に近いほど薬の薬効や毒性を識別する精度が上がって、創薬の効率化につながり、実験動物への負担も少なくなります。
佐々木 とても画期的なプロジェクトなんだろうなと思うのですが、私のような素人には十分に理解できないところがあります。湯浅さん、具体的にどのあたりがイノベーティブだとお考えですか。
湯浅 まず、大きな創薬プロセスのなかで動物実験は大手製薬会社が手をつけきれていないニッチな領域であること。次に、日本の動物実験のクオリティは非常に高く、世界的にも勝負できる領域であること。さらに、動物実験は創薬効率をダイレクトに上げる領域であること。この3つの点で非常に可能性を感じています。
村田 日本人研究者は繊細かつ丁寧に実験動物を扱い、観察するので、実験結果の精度の高さには定評があるんです。ところが、先ほどお話ししたように使われている評価系の信用性が低いので意味がない、というのが現状なんです。
◆Question 1 産学連携
佐々木 両者が産学連携をしていくうえで、何が課題でしょうか。
村田 コミュニケーション力が課題だと感じています。大学の研究者や技術者が、企業の方々の協力を得ながら汎用性のあるものをつくっていくためには相互理解が重要です。
そもそも大学でやっている研究は難しいですよね。しかし、大学の研究者や技術者が社会で使える実用的なものをつくれるかというと、それも難しい。技術の壁もあるし、それを企業の方々につくっていただくためのコミュニケーションが必要になる。そのコミュニケーションが取りづらい。
湯浅 同感です。それに加えて、私は「産」と「学」のカルチャーが全く異なるなかで、企業側が大学側の技術に対してどれだけ興味を持てるかが重要だと考えます。
リヴァンプは会社の経営支援や投資が主な仕事ですが、今回、産学連携に取り組み、大学側と共に学び、価値を付加していくところに可能性ややりがいを感じました。
佐々木 企業にとって産学連携は儲かるものなのですか。品良く言うと、ビジネスポテンシャルが大きいのでしょうか。
湯浅 大きいか大きくないかは実際のところ、成功したときにしか分かりません。だから、これからビジネスポテンシャルが大きいと立証しなければならない。
産学連携とはそういうものなので、企業の多くがビジネス化寸前のところで手を挙げて参加しようとします。しかし、やはりシーズの段階、基礎研究の段階から連携することで多くの学びがあります。今回のプロジェクトでそのことを強く実感しています。
佐々木 単なる大学のサポート役ではなく、自分事として一緒に取り組んでいるのですね。湯浅さんはよく「主語になれ」と話されています。
湯浅 それはリヴァンプが非常に大事にしていることです。理由は創業時にさかのぼります。
弊社はもともとコンサルティング会社ではない、というのが非常に大きい。ファーストリテイリングの柳井正さんの薫陶を受けた澤田貴司(現・ファミリーマート顧問)と玉塚元一(現・ロッテホールディングス社長)が、「世の中にはユニクロみたいな可能性のある企業がたくさんあるはずだ。一緒に汗をかいて、会社を良くしたい人がたくさんいるはずだ」と立ち上げた会社です。
自分が主役となって動き、企業を芯から元気にすることに社会貢献としての価値がある、という徹底した現場主義が深く根づいているのです。今まで弊社が評価された実績は、すべて「一緒に汗をかいて」いる。コンサルティングをして評価されてきたわけではない。
今回、村田先生からも同じ思いで依頼を受けたので、私たちも「一緒に汗をかきやすかった」です。
一緒に汗をかく。徹底した現場主義で相手目線に立つ
◆Question 2 汗をかく
佐々木 湯浅さんから繰り返し「汗をかく」というキーワードが出てきました。村田先生はリヴァンプのチームと一緒に汗をかいてきてどう感じますか。
村田 チームメンバーへの信頼感が強くなりました。信頼関係は簡単に築けるものではありませんが、2年、3年と一緒に作業しながらお互いを理解していった。この時間が非常に重要だったと思っています。
湯浅 大学の技術を世に出すことには大義があって、初めは多くの企業が興味を持つんです。しかし、自分の知らない専門領域を学ばなければならず、やるべきことが多すぎて離脱してしまうことも少なくない。その壁を乗り越え、ようやく安定してきましたね。
佐々木 リヴァンプ側ではビジネスとテクノロジーの2チーム体制を敷いているとのことで、それぞれのお話も伺いましょう。ビジネスチームの江上さんはどのような業務を担当し、汗をかいてきたのですか。
江上由美(以下、江上) 私たちの仕事は技術とビジネスをつなぐことです。例えばクライアントが抱える課題を聞き、それを解決するためのプロダクトやサービスの開発についてチームで議論し、事業計画を検討します。
また、プロジェクトが適切に進行するよう各ステークホルダーと話して調整するのも、私たちの務め。この新規事業を0から1にするためのいわゆる“何でも屋”として、日々さまざまな業務を行っています。
佐々木 泥臭いことも多そうですね。
江上 泥臭いことばかりです。スマートにプレゼンテーションをする機会よりも、「明日までにこれやろう」とか「今これをやらなければ間に合わない」と、日々発生する業務をコツコツと積み重ねています。
佐々木 江上さんは今まで外資系コンサルティング会社、ベンチャーのフリーコンサルタントとキャリアを重ねていますが、過去の仕事との違いはありますか。
江上 外資系コンサル会社では戦略ファームにいたんですが、経営者への提案書や資料の作成が主な業務でした。それも、いかにきれいで完成度が高い提案書か、ということが重視されていた。優秀な人が多く、書類の書き方や数字の読み方などの基礎は鍛えられましたが、現場に行って実行するということは少なかったですね。
ベンチャーはその真逆。きれいな書類はいらない、行動しかいらないという方針でした。でも、業務委託だったので自分がやりたいことには挑戦できませんでした。
佐々木 リヴァンプに入ったきっかけは?
江上 フリーランスでは自分の成長が望めないと悩んでいたときに、リヴァンプで興味を持っていたプロジェクトが始まると聞いたんです。コンサルのスキルを活かすことができて、将来的に興味分野の事業に携われる可能性がある。さらにはワーク・ライフ・バランスも実現できる環境だったので入社を決めました。
実際、このプロジェクトでは経営者にプレゼンをすることもあれば、現場でチーム一丸となって汗をかくこともあるので、今までの経験がすべて活かせます。バランスが良く、やりがいもあって面白いですね。
佐々木 日々充実していますね。テクノロジーチームの港さんはどうですか。
港高志(以下、港) 僕にとって「汗をかく」ことは仕事の原点です。大学時代にアルバイトをしていた某有名ラーメンチェーン店がまさにそれで、お客さんのために全力でラーメンをつくる従業員の姿に感銘を受けたんです。
佐々木 まさか、いきなりラーメンが出てくるとは思いませんでした(笑)。
港 そういった一生懸命な人たちがより良い環境で働けるサポートをする仕事に就きたいと思いました。それも、いいお店を用意するとか、給料を良くするだけじゃない。お客さんのために何ができるかと、従業員の人たちと一緒に考えることが大事だと思ったんです。
ラーメン屋のアルバイト経験がなかったら、リヴァンプにはいなかったかもしれません。しっかりとユーザー目線で考えられるコンサルティングをしていきたいと思っています。
佐々木 港さんは京都大学理学部物理学科で、理系出身ですよね。理系のコンサルタントが現場に入る価値をどう感じていますか。
港 僕たちにも泥臭い仕事があって、ネズミを撮影するためのケージ製作もその一つです。ノコギリで切ったり、塗装をしたりしてケージをつくる。僕の通常の業務であるエンジニアリングやプログラミングとは一見かけ離れた作業ですが、必要な作業だと思っています。
現場を見て、クライアントと対話をするとすごく世界が広がる。ゴリゴリの理系、ゴリゴリのエンジニアが現場に入り込んでクライアントとしっかり対話をしていく。それが業務にも反映されるので、そこに希少価値があると感じています。
佐々木 相当、“手触り感”がありますね。外資系コンサルティング会社ではやらなさそうです。村田先生は二人とプロジェクトを進めてきてどうですか。
村田 二人は考える力があります。今までも作業をする人はいたんですが、二人はまさに「主語」になって、自分で考えてアプローチし、時には新しい提案もしてくれるので頼もしい。
湯浅 そう言っていただけるとうれしいですね。二人もおそらく最初は「これでいいのだろうか」という葛藤があったと思うんです。
佐々木 葛藤とは具体的にどういうことですか。
江上 例えば先ほどのケージづくりでいうと、一般的なコンサル会社は既製品をお金を出して買ってくればいいという発想なんです。でも、既製品では撮影の際に影ができたりしてAIが解析できない場合がある。
だから、私たちは自ら材料を探し回って最適なケージをつくったのですが、過去にいた会社は一つひとつにそこまで時間をかけないので、初めはギャップを感じました。でも、その重要性に気づき、「汗をかく」ことの大切さが理解できたんです。
佐々木 まさに0から1をつくっていったわけですね。
本当のニーズを探り出し、企業を芯から元気にする
◆Question 3 解析と解釈
佐々木 今回のプロジェクトでカギを握るのがAIです。ここで次のキーワード「解析と解釈」を掘り下げていきましょう。
テクノロジー担当の港さん、これはどういう意味ですか。
港 僕は入社1年目からデータサイエンスの領域で仕事をしていて、3年目から村田先生と一緒に仕事をしています。データサイエンスとは、統計学やデータ分析などさまざまな分野の手法を組み合わせて有益な知見を引き出す分野です。
いまや、統計や分析はAIなどのツールを使えば簡単にできます。しかし、それはただ数値が並ぶだけのデータでしかありません。重要なのは解析したデータをどのように解釈するのかということ。そのためには数値だけでなく、データの背景まで見る必要がある。
また、AIの精度を上げるためには、たくさんのデータを入力して「学習」させる必要があります。その際、それぞれの単語や画像に意味づけを行う「アノテーション」という作業が重要になってくる。ネズミでいえば、どの所作が「引っ掻く」で、どれが「毛繕い」なのかという意味づけを人間がAIに教えなければならないのです。
だから、僕たちも現場でネズミの所作を観察することが重要です。「●時●分●秒から▲秒まで○○○をやっている」と細かくラベリングしていく。
人にお金を払ってやってもらうこともできますが、実際に自分の目で見てラベリングすることでネズミの視点や動きが分かってきて、それまで同じように見えてた行動が、まったく違う行動だと気づけるようになります。結果として、解析したデータの解釈も大きく変わってくる。やはり自分の体験としてデータを感じる必要性があるのです。
佐々木 村田先生は、港さんに解析と解釈についてどのようなアドバイスをされているのですか。
村田 一般的にAIとか数理解析と聞くと、非常に複雑で難しいことのように思われがちですが、出てくるのは単なる数値なんですよね。
われわれのプロジェクトの目的は創薬の効率を上げることであって、AIを使うことでも数値を出すことでもない。創薬の研究者がその数値を見ることで新しい創造ができるようになる。それをサポートするのが私たちの仕事です。
だからアドバイスというよりは、「こういう解析をもっとしてほしい」とか「ここを変えたらネズミの心が見えてくる」など、常にコミュニケーションを取りながら何度もやり直して、製薬企業の方が納得する解釈をつけていく。地道な作業ですが楽しくやっています。
佐々木 そういったコミュニケーションは大学の研究室にいらっしゃる研究員の方とのやり取りと同じなのですか。
村田 ほぼ同じです。その向こうにあるのが企業なのか、純粋な研究なのかという違いがあるだけです。
佐々木 港さんは博士課程に行っているようなものですね。
港 そうですね。素晴らしい経験を会社にいながらできるのはうれしいことです。
◆Question 4 コンサルティング
佐々木 お話を伺っていると、リヴァンプは従来型のコンサルティングとは異なるかたちで仕事をされているのが分かりました。ではクライアント企業に貢献する「コンサルティング」のあり方について伺います。江上さんはどうお考えですか。
江上 弊社はコンサルティング会社というより、クライアントと一緒に事業に取り組み、伴走していくというやり方です。こうした現場主義は今回のプロジェクトに限ったことではありません。クライアントと苦楽を共にして信頼関係を築き、本当のニーズを探り出す。私たちが売りたいものではなく、クライアントが求めているものを一緒につくるからこそ、課題が解決できると考えています。
佐々木 コンサルティングの定義が今の時代は難しいのかもしれませんが、湯浅さん、リヴァンプにおけるコンサルティングの定義は何ですか。
湯浅 私はリヴァンプの創業時からいますが、それ以前は外資系のコンサルティング会社に勤めていました。その視点で比較すると、前にも触れましたがリヴァンプには「企業を芯から元気にする」という明確なビジョンがある。クライアントの業務の中に入って、一緒に業務を磨き、汗をかくというスタイルを徹底しています。
佐々木 クライアント先に駐在している競合他社もありますが、コミット度合いが違うということでしょうか。
湯浅 もちろん、現場主義や伴走、共創といった理念を掲げている会社もたくさんあります。しかし、当然ながらビジネスなので、どこのコンサルティング会社も売り物を用意している。大手のコンサルティング会社ならDXが今は一番の売り物でしょう。
弊社の場合は、あえてそういう売り物をなくし、すべてクライアントの立場に立って一緒に船を漕ぐ。コンサルティング業界では稀有な立ち位置ではないでしょうか。
クライアントのDXも内製化しています。実は弊社の7割程度が今DX系の人材になっているのですが、クライアントの立場に立ち、組織を含めて共につくりこんでいきます。
佐々木 それだと、クライアントがうまく内製化し、スキルを身につけたら「リヴァンプさんはもう必要ないですよ」となるのでは?
湯浅 そうですね。でも、私たちが“卒業”できる状態になることが、クライアントにとっての理想ですから、そこは割り切ってやっています。
佐々木 港さんは実際にやってみてどうですか。理系なのでコンサルティング会社は就職先として考えていなかったのではないかと思うんですけど。
港 まったく考えていませんでした。むしろちょっと嫌いな分野でした。コンサルティングって、机の向こう側できれいな資料を並べて、「こうしたほうがいいよ」「ああしたほうがいいよ」と言っているだけのイメージでしたから。
でも、就活時に湯浅社長と話して、リヴァンプは机の横に並んで座り、クライアントと一緒に考える会社だと感じました。しかも、商品やサービスをつくる提供者側の目線ではなく、恩恵を受ける側の目線で考える。消費者やユーザーが何を望んでいるのかをちゃんと考える。これが、今の時代に必要なコンサルティングだと思います。
佐々木 クライアントに対する提供価値としてやりたいことはありますか。
港 もちろん、クライアントが何を欲しているのかを考えることは重要ですが、データ解析をしている立場から見ると、実は彼らが望むものの先に本当に必要なものがあったりするんです。
そこを僕たちがしっかり捉えて「それよりもこれが必要だよね」と提案する。まだそうした仮説を立てて提案するには経験が足りませんが、そうなれるよう頑張っていきたいです。
継続の先に成功がある。ビジネスに革命を起こせ
◆Question 5 今後のビジョン
佐々木 「今後のビジョン」について、村田先生はこのプロジェクトをどう発展させていきたいですか。
村田 初めに効率化の話をしましたが、創薬はものすごく時間がかかります。一般的には10年から15年ともいわれている。それを3年から5年で薬をつくれるシステムを構築するのが目標です。
私たちが手掛けている技術を使えば、創薬の効率が現在の5倍から10倍は上がると考えています。どの製薬会社にも絶対的なニーズがあるはずなので、実現に向けて今後も努力を続けていきます。
佐々木 実現したら革命が起きそうですね。
村田 そう思っています。
佐々木 江上さんと港さんに対してコンサルタントとしての要望があれば聞かせてください。
村田 継続ですね。「やりたい人100人、やる人10人、続ける人1人」という言葉がありますが、納得のいくものにたどり着くまでまだ距離があるので、コミュニケーションを取りながら一緒に走っていきたいです。
佐々木 プロジェクトの任期はあるのですか。
湯浅 任期はどうしましょうか。でも、村田先生がおっしゃったことが本質なんですよね。私も仕事柄、いろいろな経営者や成功者に話を聞きますが、今はアイデア自体はあまり付加価値ではない。村田先生は「100人、10人、1人」とおっしゃいましたが、私の感覚では「やりたい人1万人、やる人100人、続ける人1人」です。1万人はアイデアに気づいているのですが、本当にやる人は100人しかいない。そして、本質的な価値はやり続けた人にしかない。
「動物と人の命を救う」というミッションは終わりがない世界です。二人が納得がいくまでやり続けたいと本当に思うなら、任期という概念すらなくしてもいいという気持ちでいます。
港 いわゆる「コンサルティング」だと、3カ月など期限があり、「いつまでにこの成果を出しましょう」と決まっています。もちろん、このプロジェクトにおいても期限が決まっているものがあるのですが、それ以上にもっとこうしたいという欲が村田先生と話しているとあふれ出てきます。
興味のあるテーマがたくさん出てくるので、任期で縛られるよりも続けていきたいですね。
佐々木 江上さんは今後についてどう考えていますか。
江上 私も継続が大切だと思っています。このプロジェクトに関していえば、5年後に向けて設定した売上目標などの達成を目指して毎日を積み重ねていきたいですね。
私はもう一つコンサルティング系のプロジェクトを抱えているので、そちらでもクライアントに大きなインパクトを出せるような仕事をしたい。新規事業とコンサルと、異なる2つの目標を追い、両立できるのがコンサルティング会社としては特殊ですし、恵まれた環境だと思います。
佐々木 二足のわらじを履くことで自身の成長にも大きくつながりそうですね。港さんはどうですか。
港 僕は何年後にこうなりたいというビジョンはなくて、今面白い、楽しいと感じる方向に突き進みながらキャリアを積み重ねていきたいです。
なぜなら、時代の変化のスピードがすさまじく、突然大きく変わってしまうことがあるからです。僕が今やっているAIやデータサイエンスも、5年後、10年後には新しいツールが出てきて不要だといわれる可能性がある。
だから、面白いとか新しいと思うことを学んで、それらを組み合わせながら、自分のキャリアやライフスタイルも進化させていけたらいいなと考えています。
佐々木 今、コンサルティング会社は学生の就職先として人気が高いですよね。新卒で入社したことについてどう感じていますか。
港 仕事のありようも必要な職種もどんどん変わっていくなかで、コンサルをしているとさまざまな職種に触れることができます。そういった意味では、最初のステップとして入るには素晴らしい環境だと思う。
ただ、単純に入ったから安心ということはありません。先ほども言ったように時代の変化が速いので、今はイケイケなコンサルティング会社も10年後、20年後に残っているかは分からない。今の就活生には安心しないように、自己否定するマインドが得られる場所を探してほしい、と思います。
佐々木 では湯浅さんのビジョンを聞かせてください。
湯浅 まず、今回のこのプロジェクトは必ず成功させたいですね。繰り返しになりますが、創薬業界のDXというテーマで言うと、唯一といっていいくらい日本が勝てるチャンスがあるのが、この動物実験の領域なんです。大手製薬会社がカバーできないニッチな分野であり、かつ動物を扱うスキルが高いという日本人の特性が活かせる。
それから、産学連携の将来性を実感できたことも大きい。これが成功したら今後も村田先生と一緒に汗をかきながら、さまざまなテーマに取り組んでいきたいと思っています。僕もまだまだ老け込む年ではないのでアグレッシブにいきたいですね。
佐々木 今回のプロジェクトがいいひな型となって、他にもいろいろ応用できるということですね。どのようなビジネスモデルが考えられるのでしょうか。最近は大学発のベンチャーにベンチャーキャピタルが出資するケースもよく見られますけれども。
湯浅 僕も仕事柄いろいろなケースを見ていますが、大学の研究者たち、要はシーズを持っている人たちに理不尽なほど成果が届いてないという憤りを強く感じています。ビジネス化してマネタイズしたときに適正な成果が分配されないので、日本の知的アセットを生み出していく人たちが報われていないのが現状です。
佐々木 十分なインセンティブがないということですね。それは研究者個人としても研究室全体としても、ということですか。
湯浅 そうです。だから、この課題を解決できるようなビジネスモデルを構築していきたい。それが社会に対する私たちの役目だと思っています。
【アフタートーク】好奇心の幅を広げて
ミクスチャーなスキルを持つ
佐々木 ここからは人事企画チームの大場咲代さんに加わっていただきます。
コンサルティング会社が就活生に人気ですが、特に20代の人たちがキャリアを考えるうえでのキーワードを挙げていただきましょう。
大場咲代(以下、大場) 私たちは「ミクスチャー人材」を重視しています。これは弊社独自の言葉です。
最近、「ハイブリッド人材」という言葉をよく耳にしますが、ハイブリッドは主に2つのスキルを掛け合わせた人材を指しています。それに対して、ミクスチャー人材は3つ以上のスキルを掛け合わせた人材のこと。
今は事業変化が激しい時代なので、そこで高い価値を出すには多角的な視点で判断できることが重要です。ミクスチャー人材になれば市場価値が高くなると考えています。
佐々木 江上さんと港さんを例に具体的に説明していただけますか。
大場 江上は前職の戦略コンサルティングファームで得たさまざまなスキルと、今回の0から1にする新規事業のプロジェクトリーダーとしての技量を掛け合わせることで希少価値の高い人材になれると思います。
港は理系出身でコンサルの業務をやり、今回のプロジェクトではAIエンジニアとして最先端の技術を用いた業務をこなしている。
佐々木 港さんのラーメン屋での経験はミクスチャーの中に入ってこないんですか(笑)。
大場 ベースにあると思います。ラーメン屋での現場経験があるから、今回のプロジェクトでも多角的な視点で対応できているのではないかと思います。
佐々木 江上さんはミクスチャー人材としての実感はありますか。
江上 前職では新規事業に携わることはありませんでしたが、弊社でコンサルと新規事業を両立していくことで自分の幅が広がっているように感じています。
佐々木 新規事業はキャリアとしての価値も高く、いろいろな企業からそういったスキルを持つ人材が欲しいという声を聞きます。港さんはどうですか。
港 僕自身はやっぱり好きなものを追求した結果なのかなと思います。仕事とはまったく関係ないけれど面白そうだと思って勉強すると、好きだから知識をどんどん吸収していける。
例えば、今は実験動物の画像を解析していますが、もともとユーチューバーの動画編集が好きでやっているし、アイドルオタクなのでアイドル×ITで新しい何かを生み出せないかとよく妄想をふくらませています。好きなものを追求したことが後になって別の領域とマッチしたりするので、これからも趣味を大事にしていきたいですね。
佐々木 いろいろな分野でいい意味でのオタクになって、それを掛け合わせられたら一番なのかもしれませんね。
大場 かけ離れたスキルを掛け合わせるほうが、より面白い化学反応を生むのではないかと期待しています。
佐々木 ミクスチャー人材のロールモデルとして、港さんはどんな一日を過ごしているのですか。
港 毎日違うことをしています。クライアントとミーティングをする日もあれば、大学で研究者と一緒にネズミを撮影する日もある。エンジニアとして自分でプログラムのソースコードを書くので、大学からデータを持ち帰って解析し、息抜きにペットの犬と遊ぶこともある。本当に毎日違うので刺激的で面白いです。
大場 二人に共通してるのは知的好奇心がとても強いこと。好奇心の幅を広げ、自分の枠から一歩踏み出すだけでも少しずつミクスチャー人材になれると思います。
佐々木 私はワークとライフがミックスしてる人間なのですが、そういう意味でのミクスチャーもあるのかなと思います。江上さんはワーク・ライフ・バランスをどう考えていますか。
江上 私は2人の子どもを育てながら仕事をしています。子育ての時期は仕事をセーブせざるを得ないという人も多いなか、弊社は関係なく、もちろん労働時間を守りながら、いろいろチャレンジさせてもらえるので、自分としてはいいバランスを取れていると思います。
大場 弊社は働き方はプロフェッショナルとして自身の裁量に任せています。ライフとワークのバランスをうまく取りながら、それぞれオリジナルのキャリアを築いていけるよう推進していきたいですね。
佐々木 そのうえで、港さんのように趣味も仕事に活かせるとベストですよね。大場さんは人事としてさまざまな応募者を面接していると思いますが、どういうところを見ているのですか。
大場 形式ばった面接をするよりも、自分の強みを話してもらい、なぜそういった行動をしたのかという理由を深掘りしていくことが多いですね。
なぜなら、弊社はアドバイザリー業務だけではなく、クライアントの懐に深く入り込んでいく必要があるので、自ら行動を起こし、周りを巻き込める人材なのかを確認したいからです。
その力がある人であれば、弊社のプロジェクトに入ったとしても、うまくマッチして環境を活かし、いろいろな経験が積めると思います。
佐々木 大場さんご自身も前職が国際協力銀行で、ご結婚後はインドに3年間滞在されてもいるんですよね。当時の経験は活かされていますか。
大場 私は最もキャリアを積まなければいけない20代後半にインドにいて、当時はキャリアに穴を開けてしまったように感じていました。
でも、現地の方々や、子供が通っていたローカル保育園のインド人の親御さんたちと話をすることで、価値観の多様性や考え方の違いがあることを知ったのは大きかった。
帰国後にリヴァンプに入社して人事を担当していますが、インドでの経験がすごく生きているように感じます。振り返ると、キャリアに穴が開いたのではなく、人間としての幅を広げてくれた経験でした。
佐々木 王道を真っすぐ歩いていくだけではなく、時には寄り道をすることも大切で、それがミクスチャーにつながるのかもしれませんね。